日本では今年RAGという言葉が企業間で流行っている。
RAGで企業独自の情報をAIに入れて、企業について全部知っているAIアシスタントを作りたいという利用想定だ。弊社Crewでも社内で様々に散らばっているデータから社内ナレッジに関するFAQを回答できるAIチャットボットを作るのは定番だ。
日本企業がRAGで一杯になっている中、アメリカではAIエージェントとしてワークフローを代替する利用がどの領域でも生まれている。
GorgiasはEC業界のサポートセンターのAIエージェントを提供するスタートアップだ。既に$50Mも売上を作っている。つまり、EC企業がそれだけ利用しているということだ。
ECサービスは、ユーザーから無数のお問い合わせを受ける。ブランド側は商品について、配送について、返金について、24時間365日そのお問い合わせを返さないといけない。対応が遅れたり満足いく内容でなければ、ブランド自体に傷が付く恐れがある。決して無視できない領域だ。
この領域をAIで自動化するのがGorgiasだ。
Gorgiasの特徴として、自動化するのは顧客との会話ではないことだ。
例えば返金を必要とするお問い合わせがユーザーから来たとしよう。
ユーザーからのお問い合わせはチャットで受け付ける。
会話したユーザーが誰であるかの認証は、ShopifyなどのAPIと連携してユーザーに情報を入れてもらい、自社CRMの情報と一致して特定する。
ここでお問い合わせ主が誰か分かったので、その人が購入した商品を検索する。Shopifyで商品を出しているなら、ShopifyのAPIと先ほど取得したユーザー情報を送れば結果を受け取れる。
商品情報を受け取った後、ユーザーに返品したいのはその商品でいいのかチャットで聞く。分かりやすく商品画像の情報も送ることができるだろう。
Yesならその商品情報をたどり、配送がまだされていないかを確認する。これもShopifyを経由して配送状況が分かるAPIから情報を取得できる。
まだ配送がされていなければ、返金はできそうだ。その商品が持つ返金に関するルールをユーザーに送り、同意があれば返金対応をする。返金は、ShopifyのRefund APIを経由すればいい。
ユーザーに返金がいつ反映されるか、その後の対応などを報告して終わりだ。
最後に今回のカスタマーサポートに関するアンケートをユーザーに送ればいい。
ここまでは全てAIエージェントが自動で対応している。ユーザーは多少チャットがボットだということは感じているかもしれない。でも、このスムーズなチャット相手が、会話だけでなく裏側のオペレーションまで全て自動化しているとは思わないだろう。
注意したいのは、この過程でもし複雑な要望があった場合は、人間にエスカレーションする機能もGorgiasにはあるということ。
今では60%のお問い合わせを全てGorgiasで自動化している。
一度設定してしまえば、人間が関与しなくてすむのだ。
返金対応を率先して行いたいブランドはほぼいないだろう。Gorgiasが爆発的に売れているのは、完全に近い自動化が可能だからだ。24時間働く従業員が一人増えたと言っても過言ではない。
日本との違い
日本の”AI”との違いはその点だろう。
以前福島氏のBPaaSが話題になった。
https://x.com/fukkyy/status/1832943037049458748
BPaaSは仕事を他人に依頼している。AI SaaSは、AIに依頼している。日本のAI企業は、オペレーションの自動化をAI SaaSでなくBPaaSで解決しようとしているところがほとんどだろう。
もしかしたら、賃金が低くDX化がアメリカほど進んでいない日本では、GorgiasのようにAI SaaSは相性が合わないのかもしれない。それでもGorgiasのような利用を聞いて、わくわくするのではないだろうか。
日本ではどこがAI SaaSの道を切り開いていくのか、考えていきたい。